BLS(一次救命処置)の胸骨圧迫の重要性と細胞レベルでの話

最近テレビで救命活動、心肺蘇生を行ってる映像が流れる機会があり、Twitterでも市民による心肺蘇生の重要性が話題になりました。私は大学時代、救命サークル(ボランティア活動やBLSの練習を定期的に行うサークル)に入っていて、BLS講習を受けたり、勉強会を主催したりしていました。また細胞生物学が私の専門でもあったのでそちらの知識を元に胸骨圧迫の意義と心臓の細胞レベル(簡略化)でのお話をさせていただきます。

参考 普通救命講習(AED講習)で学んだことと聞いたことらいちのヒミツ基地

らいちさんの記事には一次救命の大事さと周りの人(野次馬でも)が出来ることがイラスト付きでわかりやすく書かれています。是非ご参照下さい。

BLS(一次救命処置)の詳細や手順は記事文末のリンクをご参照下さい。ここでは、胸骨圧迫による血流維持が何故必要なのかを細胞レベルの話から軽く辿ってみたいと思います。

MEMO
この記事の強調文字・太字はポイントとなる用語なので、詳しい意味が知りたいときはググってみて下さい。

参考:心筋-バーチャルラボラトリ
Mindsガイドラインライブラリ 
ハート先生の心電図教室
病気がみえるvol.2循環器

目次

心臓の興奮と伝導(刺激伝導系)

心臓は右心房、右心室、左心房、左心室の4つの部屋からなり、全身に血液を送る心室での異常(心室細動、心室頻拍などの不整脈)が起こると血圧が一気に下がり非常に危険な状態になります。
心臓のポンプ機能は絶妙なタイミングのズレでの収縮と拡張が正常なリズムで起こることで上手く機能します。この正常なリズムを正常洞調律と言います。

心臓の刺激伝導系

正常洞調律の実際の心臓の動きはハート先生の心電図教室のFlashがわかりやすいので以下のリンクをご参照下さい。

参考 正常洞調律

正常でない心臓のリズムでは、ポンプ機能が上手く働かないので、AEDなどの除細動器で一旦狂ったリズムをリセットし正常なリズムに戻す必要があります。
(心室細動、心室頻拍以外の心停止では除細動は効きませんので電気ショックはしませんが、引き続き胸骨圧迫と人工呼吸の心肺蘇生(CPR)を継続します。)

除細動器は基本的には電気ショックでリズムをリセットするだけなので、正常な自己心拍が再開するまで、心肺蘇生を続けなくていけません。AEDと胸骨圧迫はセットです!

心臓は電気的な興奮が伝導し、正常なリズムで収縮が連動することでポンプ機能が働きます。最初のリズムの開始を司っているのがペースメーカーである「洞結節」です。
洞結節には高い自動能(刺激がなくとも勝手に興奮が発生し、自ら刺激を生み出す)があり、心臓の収縮を指令するため電気的興奮が通常1分間に約60~80回のペースで生み出されています。
ここまでが心臓のマクロの話でした。

では細胞レベルの心筋細胞ではどういう仕組みで収縮と伝導が起こっているのでしょうか?少しマニアックかもしれませんが、半分位は高校の生物でも習う範囲だと思うので、ざっくりと理解していただけたらと思います。

心筋細胞はイオンとATPで働く

細胞内外にはNa+、K+、Ca2+などのイオンがあり、それらがある濃度勾配で分布しています。濃度勾配があることで刺激がない時も電位が発生します。(静止膜電位)それらのイオンが細胞内を入ったり出たりすることで電位差の変化が生まれ、活動電位が発生します。心筋細胞では特にCaイオンが重要な役割を果たしています。

「心筋活動電位の模式図」の引用元:心臓の電気現象|心筋-バーチャルラボラトリ

静止膜電位の発生や維持にはNa+とK+の濃度勾配が必要ですが、それを維持しているのが細胞膜にあるNa-K-ポンプです。Na-K-ポンプがNa+を細胞外に、K+を細胞内に出し入れしていますがこれにはATP(エネルギーの通貨)が使われます。(能動輸送

ATPはエネルギーの通貨

ATPとはここでは簡単にエネルギーを生み出すお金みたいなものだと思って下さい。酸素を使って糖質などを元に細胞内のミトコンドリアでATPを産生するのが好気呼吸です。呼吸というと息を吸って吐くことをイメージしますが、その吸った酸素が細胞レベルでエネルギーに変換されることを好気呼吸と言います。何のために酸素が必要なのかというとエネルギー=ATPを大量に生み出すためなのですね。

ATPには高エネルギーリン酸結合というリン酸結合の部分にエネルギーが貯蓄されています。ATPがADP,AMPへと分解される過程でエネルギーが発生します。
ATPは無酸素の環境でも産生出来ますが(嫌気的解糖)、それだけでは足りないので酸素を使ったATPの大量産生が重要になってきます。

静止膜電位にはATPを使ったNa-K-ポンプでのNa+とK+の能動輸送による細胞内外の濃度勾配の維持が必要です。静止膜電位がないと活動電位も起きないのでATPは重要です。また筋収縮にもATPやCa2+が働きます。免疫反応、酵素反応、生きていくのに必要な生体の様々な働きにATPは使われます。こうしたエネルギー源としての酸素や栄養、イオンを脳や心臓、全身の細胞に供給し続けるために血液循環が必要なのです。

脳は酸素を食う

脳は糖分を消費するといいますが、その消費には酸素が伴います。脳はエネルギー食いなので、血流維持により酸素供給が必要となります。酸素供給が途絶えると脳にダメージが残ってしまいます。

そのため胸骨圧迫と人工呼吸による酸素供給が大事なのです。

BLSはやる勇気が大事!

呼吸がない、意識のない人が倒れていたらどうするか。実際に目の前で起きるとどうしていいかわからなくて、下手に触って良いのだろうかと、怖くなってしまうと思います。

でも怖がって何もしないとその人はどんどん死に近づいてしまいます。勇気を持って心肺蘇生を始めましょう。

反応がない倒れている人を見かけたら、まずは大声で助けをよび、「あなたは119番に通報して下さい」「あなたはAEDを持ってきて下さい」と指示を出します。普通の呼吸がないと判断したら直ちに胸骨圧迫を開始します。できる方は人工呼吸もした方が良いですが、出血していたり抵抗がある場合は人工呼吸なしの胸骨圧迫のみの心肺蘇生でOKです。

↓のイラストがわかりやすいので是非参考にしてみて下さい。

AEDが届いたら電源を入れ、指示に従います。通電してもしなくても直ちに胸骨圧迫を再開します。(電極パッドを貼るなど準備中も胸骨圧迫はなるべく継続する)

BLSは胸骨圧迫のみならそれほど難しくありません。何もしないと絶対に後で後悔します。勇気と知識をもってやりましょう。

BLSの詳しい手順は以下のリンクもご参照下さい。

参考 BLS:一次救命処置(Basic Life Support)日本ACLS協会
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